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コモンズの悲劇

■ダーウィン展(6/22日まで)

日曜夜のNHK・TV「ダーウィンが来た!」を、毎週楽しく見ている。
5月末、東京出張の折、上野の国立科学博物館で「ダーウィン展」を見学した。
アメリカで好評を博し、日本初公開。ダーウインの生い立ち・人生をたどりながら、
「種の起源」(1859年出版)を世に出した、時代背景を追っていく。

当時は、「地上のあらゆる生命は、主イエスキリストが創造した」と、固く信じられ、
生命の起源に異を唱えようものなら、捕らえられて絞首刑にされかねない時代だった。
20代に進化論を完成…その後様子を見ること20年。
四十半ばになり、他の生物学者が、類似の理論を発表するに及んで、ようやく世間に発表。進化論は、それまでの世界観を大きく変えていった。
ダーウインは進化論で、
「最も強いものが生き残るのではなく、 最も賢いものが生き延びるのでもない。
  唯一生き残るのは、環境に変化しうる能力を持ったものだけである」

と言っている。「何代も永続する企業」の絶対条件でもある…。

会場は、進化論の着想をもたらした、ガラパゴス諸島の生物のはく製、地球一周の航海に乗船した「ビーグル号」の模型、航海日誌、 身の回り品など、日本では見られない展示品の数々…。生きているゾウガメと、ガラパゴストカゲも見た。


【吉村外喜雄のなんだかんだ - 576】
「コモンズの悲劇」

米国の生物学者ハーディンが1968年、「コモンズの悲劇」というエピソードを学会に問題提起した。 コモンズというのは、 イギリスの農民が慣習的に共用利用してきた、「共有地と、その運営仕組み」のことです。

たとえば、羊を飼う放牧地があります。その放牧地は、村人達が共同利用しています。
そこで、一人の農民が、自分の羊を一頭増やしました。
すると、本人の財産が増え、得をします。

それを見た農民たちがみんな得をしようと、次々と羊を一頭、また一頭と増やしていったら、どうなるでしょうか?
餌となる牧草がどんどん減っていって、ついには、その牧草地は滅んでしまいます。

日本にも、古くから「コモンズ」があります。山や川などの資源を村の人々で共有する「入会権」、漁師の「漁業権」などがそうです。
山には所有権者がいます。主に山に生える樹木を所有します。
でも、山に入れば、枯れ木が落ちていたり、キノコが生えていたり、動物が生息しています。それらを、村人が自由に採って、 自分のものにできるという慣習が、「入会権」です。
村人たちが共同で山を管理し、森がもたらす様々な恵みを、村人みんなで享受するのです。山は「みんなのモノ」であり、「自分のモノ」 でもあるのです。
ところが車社会になり、「入会権」を持たないよそ者…町に住む人たちが、休日ともなると、大勢山に押しかけて、村人の共有財産… 山菜やキノコを採って、山を荒らすようになったのです。

村人がキノコを採るときは、来年また生えるようにと菌糸を残し、キノコの土壌を荒らさないよう注意しますが、 町からやってきた人たちは、採った後のことなど考えようともしません。
山は荒れ、山菜もキノコも採れない山になってしまうのです。
海もまた、漁師たちは「漁業権」を大切に守り、海の恵みをむやみに乱獲したりしません。
お互をい守り合う、暗黙のルールがあったのです。
それは、漁村の人々が、海の資源維持を何よりも大切にしてきたからです。

ところが、魚群探知機や捕獲技術の発達、漁船の大型化などで、年々魚が採れなくなり、
暗闇に紛れて禁漁区域に密漁船が入ったり、漁業権に拘束されない外国の船がやってきたりして、資源が枯渇。 漁業が成り立たなくなったのです。

今、中国は、なりふり構わず世界の「燃料資源」「穀物」などを買いあさっている。
6月初め、ローマで開かれた食糧サミット…アメリカは、日本やフランスの反対を押し切って、食料になるトウモロコシから、 バイオ燃料を更に増産すると発表した。
穀物価格が高騰して、世界に餓死者が増える心配よりも、自国の利益を優先したのです。

地球温暖化や食糧危機が叫ばれる今世紀。資源には限りがあります。
奪い合いが争いを呼び、そして滅亡が待っている。
国の利益の枠を超えた、国際的「入会権」の概念を構築していかなければならないでしょう。
自国の利益ばかりに囚われていると、ハーディンが警告する「コモンズの悲劇」を迎えることになります。

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