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アメリカの新聞王/令嬢誘拐事件

■マスコミが及ぼす影響力

柳沢大臣など、閣僚の相次ぐ問題発言は、国民の政治不信を増幅させ、世論は安倍内閣不信、自民・民主の支持率低下となって現れた。
それが無党派層の増大を招き、福岡・愛知の知事選に大きく影響したのです。

マスコミが国民大衆に及ぼす影響力は大きい。「あるある大辞典」で、納豆によるダイエット効果がお茶の間に流れるや、 スーパマーケットから納豆が消えてしまったのは、つい最近のこと…。
その後、それが捏造であることが明るみに出るや、納豆の売れ行きがヒタッと止まってしまった。この両極端が、それを物語っている。

ややもすると興味本位、視聴率優先に偏りがちなマスコミ。国民世論を間違った方向へ導いてしてしまう、魔力を秘めているのです。


【吉村外喜雄のなんだかんだ - 163】
~歴史から学ぶ~ 
「アメリカの新聞王、ハースト家・令嬢誘拐事件」

今から30年以上も前の話になります。1973年(S48)に、アメリカの新聞王、ハースト家の令嬢(お孫さん)が、 黒人過激ゲリラに誘拐されるという事件が起きた。このニュースは全米のみならず、世界を駆け巡り、 日本でもマスコミが連日大きく取り上げたことを記憶している。

過激ゲリラは、ハースト家に1800億円の身代金を要求してきた。
加えて、ロサンゼルスに住む貧しい黒人一人につき、毎日70ドル支給するよう要求してきた。新聞王ハーストは、テレビを通して、 身代金の支払いを拒絶した。
その三ヵ月後、ロサンゼルスの銀行に、黒人過激ゲリラが、ライフルを乱射して押し入り、金を奪って逃走した。事件後、 隠しカメラを見たところ、誘拐されたハースト家の令嬢が、強盗団の一員に加わっていることが分り、またまた全米は大騒になった。

数ヶ月後、州警察は、過激ゲリラの潜伏場所を突き止め、リーダー以下潜んでいた6名全員を射殺した。たまたま、 ハースト家の令嬢は、他の過激ゲリラと別の隠れ家に潜伏していて、難を逃れることができた。
その後、その隠れ家も突き止められ、令嬢は逮捕された。そして、7年の刑を言い渡され、服役した。

刑を終えた後彼女は、自らの体験を本に出版し、講演をして歩いた。
「身代金は支払わないと、祖父がテレビで言っているのを見たとき、家族に見捨てられたと思った」と、ゲリラに加わった動機を語っている。
ゲリラから、虐げられている黒人の話や、理想社会実現の話を聞かされているうちに洗脳され、ゲリラ組織に加わったのだという。

祖父のハーストは、20代半ばに新聞社を興し、三流芸能新聞さながら、殺人事件、ゴシップ、興味本位の記事をでかでかと載せ、 販売部数を驚異的に伸ばしていった。30代に入ると、全米各地の新聞社を次々と買収。新聞王と言われ、成功者にのしあがっていった。

ゴシップ記事は益々エスカレートし、読者を引きつけるために、面白いネタを見つけてきては、ある事ないことでっちあげ、 社会的モラルなど意に介せず、営利本位の経営姿勢を貫き通した。
こうしたでたらめ記事で大衆をあおるうち、それが世論となって、様々な歴史的事件の引き金となった。

[アメリカ・スペイン戦争]
アメリカとスペインの関係がこじれていた時、たまたま米国の船が、スペイン領キューバで原因不明の爆破事件で沈んだ。 それをファーストは、スペインがやったと書きたてた。更に「米国人女性が、スペイン人にレイプされた」などと、 でたらめの記事を書き立て、打倒スペインに沸騰した世論をバックに、政府は戦争を起こし、勝利した。
(9/11事件に憤慨した世論をバックに、イラク戦争を起こしたように…)
ハーストは、「私に出来ないことはない。戦争も起こせる」と豪語したという。

[政敵暗殺事件]
ハーストの政敵政党から、大統領候補が立ったとき、候補者のゴシップを次々でっちあげ、「殺してしまうしかない」と、新聞に書き立てた。 その数ヶ月後、対立候補は何者かに暗殺された。

[リンドバーク令嬢・誘拐事件]
この時も面白おかしく、ありもしない記事を書きまくり、そのため身代金が倍になった。ついには、娘さんは死体となって発見された。

晩年、ハリウッド女優を愛人にし、サンフランシスコ郊外の丘陵地に、東京都に匹敵する広大な土地を求め、 2兆2千億円もの大金をつぎ込んで、愛人のための豪邸を建てた。
月に幾度も仮装パーティーを開き、地元の名士やハリウッドスターを招いた。
パーティの豪華な料理は、貧しい人たち5万人分の食事代に相当するものだった。また、愛人のためにハリウッド映画会社を買い取り、 愛人主演の映画を次々製作した。

ハーストには5人の息子がいて、自分の会社で働かせたが、後継者として育てることはしなかった。ハーストの死後、 新聞社は没落した。会社を私物化し、贅沢の限りをつくし、一代で潰れたカリスマ経営者の典型といえます。

現在豪邸は、カリフォルニア州の所有物となり、観光名所になっている。
一昨年、サンフランシスコを訪れたとき、バスの窓から遠望出来た。

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