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金沢が空襲に遭わなかったわけ?

■昭和二十年、終戦直前の思い出

昭和二十年春、当時私は三歳。満州事変で出兵し、傷痍軍人になって帰郷した父は、病が癒え、香林坊の自宅で、ロープ・ 梱包材料の商いを始めていた。
店は畳敷き。手回しの機械をコロコロ回して、麻ヒモの玉を巻き直ししている父の姿を記憶している。
戦争の影はわが家にも及び始めた。隣家の軒先にはいつも、村田銃を担ぎ、キャハンを巻いた兵隊さんが、数人屯していた。 向かいのNさんの家は、空襲時延焼を防ぐためと、強制取り壊しに遭い、引っ越していった。

各家、防空壕を掘らされた。私の家は、店の造作を取り壊して床に穴を掘り、形ばかりの防空壕を作った。 掘っているところを覗いていた私…こんな小さな洞穴…爆弾が落ちたら、焼き芋みたいになってしまうだろう…と、子どもながらに思った。
6月、母は祖母・姉と兄、そして私を連れ、弟をおぶって、金沢山手の母親の実家の、農家の納屋の2階へ疎開した。
その頃、夜中に何度も空襲警報が鳴り、頭上をB29が飛んでいった。

暑い夏の夜更け、物凄い数の飛行機がやってきて、富山の空が真っ赤に燃え上がるのを 見た。ポコン・ ボコンと焼夷弾が落とされるたびに、医王山が炎に浮かび上がる…
60年経た今も、脳裏の奥深く…忘れることがない。


【吉村外喜雄のなんだかんだ - 590】
~歴史から学ぶ~
「金沢が空襲に遭わなかったわけ?」

我が故郷金沢…一発の焼夷弾も落とされず、一人の被災者も出さず、空襲に遭うことなく終戦を迎えた。
もし空襲されていたら、市の中心部にある私の家は、焼けて無くなっていただろう。
米軍の資料によれば、金沢は、爆撃対象から除外されていたという。
その理由を求めると、金沢は第九師団がある軍都でありながら、当時師団が台湾に駐留していたため、兵卒はもぬけの殻… 極めて戦略価値が低かった…という説。

米軍の機密文書によれば、石川県の爆撃目標は、国鉄松任工場と、七尾港の2ヶ所だけ。それに対し、富山県は、不二越本社工場、 日満アルミニウム富山工場など、
工場8ヶ所、港湾3ヶ所、水力発電所10ヶ所、変電所1ヶ所の計22ヶ所もあった。
工業県としての圧倒的な実力の差が、石川と富山の明暗を分けることになった。

昭和19年秋から終戦まで、全国で、米空軍の焼夷弾攻撃にさらされた都市は、58ヶ所にのぼる。福井市は、 20年7月19日に焦土と化し、次は金沢と、誰もが覚悟した。
ところが8月2日、B29の編隊は、金沢の上空を通り過ぎて、富山市に1万2千7百発の焼夷弾を雨アラレと投下した。 11万人が焼け出され、2,776人の死者が出た。
市の焼失面積は95%、焼失率全国一の焼け野原になった。
2005年8月12日・なんだかんだ89「富山大空襲」

金沢が空襲をまぬがれたのは、原爆投下の実験候補地として、無傷のまま残したかったから…と、 まことしやかに噂されたこともあった。
逆に米軍は、歴史的街並みを残す金沢や京都への爆撃をためらい、保護しようとした…との見方もあるが、それはかいかぶりというもの。
あの姫路城も焼夷弾にさらされたが、炎上しなかったことで知られている。
終戦がもう少し先に伸びていたら、金沢も無事では済まされなかったと思う。

昨年、アメリカの日系3世が制作した、ドキュメンタリー映画 「ヒロシマ・ナガサキ」の冒頭のシーン…東京渋谷の雑踏の中で、 若者達に「8月6日は何の日?」と質問をぶつけたが、誰一人答えられなかった。

近頃の若者は、原爆投下の日など意識になく、関心を持とうともしない。
原爆投下で、何十万人もの死者を出し、今も尚、後遺症に苦しむ人がいることを…「自分には関係ない」と、他国の出来事のように、無関心… 。

当然、歴史にも興味を示さない…平和ボケの日本人。
日本人であれば忘れてはならない大東亜戦争。
遠い昔の出来事として、忘れ去られてしまっている。
お盆を真近にした護国神社…国を守り、命を捧げ、死んでいった人達を追悼し、手を合わす人影はまばら…今の日本の姿を見たら、 浮かばれないことだろう。

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