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重圧と戦うイチロー

■一朗からイチローへの、スイッチの切り替え…

書道家は、正座をして、硯に水を入れ、静かに墨を磨る動作から始まる。
無心に硯に向かって墨を磨る…心が静まり、雑念が消え、気力が満ちてくる…。
相撲でも剣道でも、試合に入る前の一定の動作の中で、試合に挑む心の切り替えが出来てくる…。

イチローも、自宅から球場に入るまでの間に、スイッチが切り替えられ、表情が全く変わってしまう。毎日、 家を出てからクラウンドに立つまでの時間が、分刻みできっちり決まっている。試合の前の動き出す時間、ストレッチに入る時間、準備の時間…。
それをこなしていく過程で、心の切り替えが出来てくる…特に意識しなくても…
自然と気が入ってくる。

私がゴルフをするときも、自分の番になったら、まず、クラブを正眼に構えて目標を定め、毎回同じ動作、 同じアライメント動作でアドレスに入る…。
そうすることで集中力が高まり、心と身体がリラックスし、緊張が和らいでいく。
ショットを打つ前のこうした一連の動作が、無意識に出来るようになったら…一人前だろう。


【吉村外喜雄のなんだかんだ - 600】
「重圧と戦うイチロー」

鈴木一朗は、高校卒業後ドラフト4位で、オリックスに入団した。
3年目、仰木監督に見出され、登録名を"イチロー"と変えた。
レギュラーを掴むや、いきなり大記録を打ち立てた…前人未到のシーズン210安打。
イチローの名は、またたく間に全国に広がった。

だが、この頃からある違和感を抱き始めていた。"イチロー"が一人歩きし、自分ではない。 マスコミが描く天才バッター"イチロー"のイメージは、21歳の鈴木一朗にとって、あまりにも重かった。

その苦しさから逃れようと、常軌を逸する厳しいトレーニングに明け暮れた。
ヒットを量産し続けるイチロー…更にヒートアップする世間の目。
イチローの名前だけが、どんどん巨大化していく。しだいにイチローは人目を避け、引きこもることが多くなった。帽子を深くかぶって、 人が通るとフッと下を向いてしまう自分がいた。

首位打者になって当然…その期待が重圧となって、イチローにのしかかった。
「来年も頑張って~」と言われるたびに、背筋が寒くなった。追い立てられるように、打撃の改良に取り組んだ… 毎年バッティングフォームを変えた。

あれだけ好きだった野球が、全く楽しめなくなっていた。
次の年へのプレッシャー…その責任と重圧。純粋に、野球をしている感じが全くなかった。
やって当たり前…やらないと驚かれる自分…成績を残すことだけの使命感に縛られて、面白くない毎日が続いた。

このままでは、自分は駄目になってしまう。イチローは、大きな決断を下した。
野球の本場アメリカに渡った。2001年、イチローはメジャーリーガーとして、再スタートした。
いきなり首位打者。そしてMVPの大活躍。4年目には、メジャーリーガー、シーズン最多安打記録達成。
だが、結果を求められる重圧は変わらなかった。重圧に苦しむ生活も変わらなかった。自らに課した200本安打という目標… 毎年170本を超えると、途端に打てなくなった。精神的に追い込まれ、食事の最中…突然呼吸が苦しくなることもあった。
結果を出し続けるために、イチローは毎年新たなバッティングフォームに挑んだ。外から見れば、 軽々とヒットを量産するスーパースターに見える。しかし、イチローは、ずっともがき続けていた…。    ~つづく~

NHKプロフェッショナル 仕事の流儀から

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